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進化し続けるロードスター。今度は駆動系と電子ユニットを改良

車の情報誌「ニューモデルマガジンX」編集長監修

この記事の監修者
月間ニューモデルマガジンX編集部
代表取締役社長兼編集長
神領 貢

マツダ・ロードスターが世界中で人気の小型オープンスポーツカーであることはご存じのとおり。「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」として2000年にギネスブックに認定されており、その記録は更新され続けている。ちなみに1989年に初代がデビューして以来、全世界での累計販売台数は119万台に達している。

現在販売されているロードスターは4代目にあたる。登場から8年半が経過しているが、その魅力は未だに衰えておらず、他のマツダ車と同じく商品改良が行われて鮮度が保たれている。しかも、直近に実施された改良はかなり大幅なもの。いったい、どんな進化を遂げたのだろうか。

ロードスターの最大の魅力は、その軽快な走り味に尽きる。世界の多くのスポーツカーやスポーティカーがハイパワー化によって動力性能を誇示する反面、大パワーを受け止めるために肥大化するなか、ロードスターはむやみにパワーを追求することなく、走りの基本である小型軽量ボディと重量バランス、必要十分なパワーの組み合わせを重視。持てるパワーを引き出して気持ちよく思いのままに走るという初代からのコンセプトが受け継がれ、クルマを運転することに喜びを感じるファンの支持を世界中で得ている。

ロードスター フロント
ロードスター リア

そんなロードスター・ファンがさらなる走りの喜びを感じられるよう、改良では軽快さと安定感の両立を狙って駆動系とパワートレインに手が加えられた。逆にサスペンションとタイヤは従来モデルから何ひとつ変更されていないという。「軽量ゆえに減速旋回時における後輪の荷重抜けを改善したかった」と話すのはマツダ車両開発本部の首席エンジニアだ。解決策としてサスペンションを固めて接地感を高める方法が思い浮かびそうだが「ロードスター特有のヒラヒラとした軽快感を損いたくなかった」との理由から、違うアプローチにトライ。新たに開発、そして採用されたのがアシンメトリックLSD(リミテッド・スリップ・デフ)だ。

ロードスター アシンメトリックLSD

これは従来のスーパーLSDと違い、軽量コンパクトで耐久性の高い円錐クラッチ型LSDにカム機構を追加。加速時と減速時で差動制限力が異なり、減速時のほうが差動制限力が大きく、後輪の接地荷重減少によって車両挙動が不安定になりやすいターンインでの減速旋回時の安定性が向上。LSD特有の旋回初期の曲がりにくさが改善された点もポイントで、街乗り領域での軽快感はむしろ向上しているという。このアシンメトリックLSDはSグレードを除くMT車に採用されている。

MT車のDSC(ダイナミック・スタビリティ・コントロール)に新機構が搭載された点もトピックだ。新しい制御モードである「DSC-TRACK」を選ぶとスポーツ走行におけるドライバーの運転操作を最大限に尊重し、ドライバーがコントロールできないような危険なスピン挙動に陥った場合に限って制御が介入する。つまり、限界走行時にお節介な介入がギリギリまで入らないようにできるわけだ。

より軽やかで正確なステアリングフィールを実現するため、電動パワーステアリングも改良。ステアリングラックの摩擦を低減しながらモーターアシストの制御ロジックをより緻密に進化させることで、自然でスッキリとしたフィードバック感を実現している。とくに旋回後の戻り方向がスッキリ&素直になった。これまでサプライヤーにオーダーしていた制御を内製に変えたことで、やりたいことができたそうだ。

ソフトトップモデルに搭載されるP5-VP[RS]型1.5L直列4気筒DOHCエンジンの排気量に変更はないが、国内ハイオクガソリンのオクタン価に合わせた専用セッティングにより、燃焼効率が向上。その結果、最高出力は4ps向上して136psに達した。最大トルクは15.5kg-mのままで、変わっていない。

また、2Lエンジン搭載のRFも含めて駆動力制御に最新の制御ロジックを導入。アクセルを踏み込んで加速するシーンはもちろん、とくにアクセルペダルの踏み込み量を減らした時(つまり減速時)のレスポンスが改善され、よりドライバーの意に沿った駆動力の応答性を実現している。

ロードスター エンジンルーム

各社が生産性の効率アップをめざしてバリエーション展開を絞り込んでいる昨今、ルックスや機能装備が少しずつ異なるグレードが何種類も揃っているクルマはイマドキ珍しい。装備表とにらめっこして各グレードの違いや差額を計算していると、ついつい〝迷子〞になってしまいそうなほどだ。

先進安全機能が進化した点も見逃せない。MRCC(マツダ・レーダー・クルーズ・コントロール)は設定した速度での定速走行や車間距離を一定に保って走行するための運転支援機能で、高速道路等で威力を発揮して快適な走行をアシストしてくれる。従来のレーダーは車体中央への装着が必須だったが、デザインを壊したくないとの理由からロードスターへの起用は見送られてきた。しかし、新世代のレーダーはオフセット装着が可能なため、デザインを崩すことなく搭載することができたという。

ロードスター フロントレーダーセンサー

SBS-RC(スマート・ブレーキ・サポート[後進時左右接近物検知機能])も新たに搭載。約15km/h以下で後退中にクルマの左右や後方に接近してきた車両を検知し、衝突を回避できないと判断した時、ブレーキ制御を支援することで衝突時の被害の軽減を図る。

ロードスター フロントカメラ

マツダコネクトの進化に合わせ、前方の視界を確保しながら、エアバッグ作動時の干渉を避けるため、画面の縁部分をできるだけ細くしたフレームレスデザインの8.8インチのセンターディスプレイを採用。スマートフォンからアプリを通じてクルマの状態が確認できたり、万が一の事故の際には救急車を手配するコネクティッドサービスにも対応している。

ロードスター 8.8インチセンターディスプレイ

これらの先進安全機能やマツダコネクトが進化できた背景には、電子プラットフォームと呼ばれる電気系の刷新がある。契機は継続生産車にも適用されるサイバーセキュリティ法だ。すでに対応しているCX-60から流用され、これに伴って電子&電気系パーツも全面刷新された。「ならばデザインも見直そうと、手を加えることにした」とチーフエンジニアは語る。一例として前後ランプ類がリニューアルされ、デイライトはターンシグナルを兼ねる方式に変わった。エクステリアとインテリアの細部も見直され、さりげなく手直しされた。

ロードスター 運転席周り
ロードスター シート

このように多くの面でロードスターはより良い方向にしたが、残念な点もある。それは人気を集めて予定より1年長く販売された990Sが廃止されたことだ。最大の理由は、新しい電子プラットフォームの採用による重量増だ。このため、最軽量モデルのSグレードも車重が20kg重い1010kgに増えて1tを切る仕様は姿を消してしまった。先進安全機能を搭載することで車重が増加してしまったのは仕方ないことだろう。

最後になってしまったが、ロードスターのグレード展開を取り上げておくと、Sグレード、Sスペシャル・パッケージ、Sレザー・パッケージ、RS、NR-Aに加え、クラシックかつ上品な装いでゆったりとドライブや旅を楽しんでもらうことを狙いとしたSレザー・パッケージVセレクションが新たに追加された。このモデルにはスポーツタン内装とベージュ幌(ほろ)が採用されている。Sグレード、RS、NR-Aは6速MTのみの設定で、その他のグレードには6速MTと6速ATが設定されている。

ベース価格はSグレードの約290万円からRSの約368万円まで。従来の同等グレードと比べて価格は若干上がっているが、装備の追加や改良点を考えれば納得の上昇幅と言えそう。

MTを駆使して楽しく走り回りたいのであれば、最軽量のベーシックモデルであるSグレードが魅力的だ。オープンエアを楽しみながらクルージングしたいのであれば、新しく登場したSレザー・パッケージVセレクションの6速ATが最右翼となりそう。いずれのグレードを選んでも、新型ロードスターをドライブすれば自然と笑みがこぼれるに違いない。

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[この記事の監修者]
月間ニューモデルマガジンX編集部
代表取締役社長兼編集長
神領 貢

しんりょうみつぐ 1959年3月20日生まれ。関西大学社会学部マスコミ(現メディア)専攻卒業後、自動車業界誌やJAF等を経て、「ニューモデルマガジンX」月刊化創刊メンバー。35年目に入った。5年目から編集長。その後2度更迭され2度編集長に復帰、現在に至る。自動車業界ウォッチャーとして42年だが、本人は「少々長くやり過ぎたかも」と自嘲気味だ。徹底した現場主義で、自動車行政はもとより自動車開発、生産から販売まで守備範囲は広い。最近は業際感覚で先進技術を取材。マガジンX(ムックハウス)を2011年にMBOした。
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