乗用車市場においてSUVは確固たる人気を集めている。大径タイヤによるアクティブな雰囲気や、乗降のしやすさと見晴らしの良さに貢献するヒップポイント高が魅力だ。多様なモデルが存在するが、とくに取り回しやすいコンパクトクラスが人気で、日産の調べによると2025年の年間販売台数は52万台を超えたという。
この激戦区に日産が投入しているのがキックスだ。モーター駆動ならではのスムーズな走りを強みに、e-POWER専用車として2020年6月に国内導入された。2022年には待望の4WDモデルが追加されて存在感を示してきたが、年月の経過とともに安全装備や居住性の物足りなさが弱点になりつつあった。
こうした課題に応えるべく、フルモデルチェンジが実施されて第2世代へと進化を遂げた。今回の全面刷新は、モダンな外観や質感が高まった内装、そしてパワートレインの全面刷新など見どころが満載だ。再建を進める日産において、リーフと並んでブランドイメージ向上を担う重要な役割を任されている。
外観はモダンで存在感のあるスタイルへ変貌した。アメフトのヘルメットをモチーフとしたフロントグリルは圧倒的なワイド感をもたらす。ボディ下部の無塗装樹脂ガーニッシュにはスニーカーのソールを思わせるユニークな紋様が配され、アクティブなSUVらしい遊び心が演出されている点も特徴的だ。
運転席から見えるボンネットフード左右の盛り上がりは、自車の車幅感覚を掴みやすくする利点があるが、慣れるまでは実際のサイズ以上にクルマの大きさを意識させられるかもしれない。
骨格には新たにCMF-Bプラットフォームを採用し、パッケージングは抜本的に見直された。後席ニールームはクラストップの630mmに拡大され、大人がゆったり寛げる空間を確保。
ラゲッジ容量も先代の423Lから470Lへ増大し、クラストップの開口幅1134mmと相まって優れた実用性を備えている。
質感改善の声が多かったインテリアも大幅に進化を遂げた。インパネまわりにソフト素材やファブリック表皮、金属調ガーニッシュが用いられ、ステッチ処理も施されている。ファブリック仕上げのインパネ中段はパームレストを兼ね、ディスプレイ操作時に手を置いて安定した操作が行える工夫が光る。
コックピット正面には全車標準装備の12.3インチ全面デジタルメーターが配置され、表示内容を自由に変更可能だ。さらに、オプションのGoogleビルトインを選べばナビ操作などを音声操作で行える。運転中の視線移動を最小限に抑え、安全で快適なドライブをサポートしてくれる先進機能だ。
シート設計にも乗員が寛げる工夫が詰まっている。フロントシートは体を包み込む柔らかさを持ち、ファブリック表皮が振動を吸収。また、後席にも背骨の負担を減らすゼログラビティシートを新採用。2段階のリクライニング機構と中央アームレストが全車標準装備され、快適性が高まった。
パワートレインにはゼロから完全新設計された第3世代e-POWERが搭載された。モーターやインバーター等を一体化した5-in-1構造によって小型軽量化と高効率化を達成。前輪を駆動するメインモーターは最高出力が5%、最大トルクが13%向上し、よりパワフルでレスポンスの良い走りを実現している。
発電用エンジンには、セレナで実績のあるHR14DDE型1.4L直3エンジンを新採用。従来の1.2Lより最高出力が20%、最大トルクが11%向上した。電動ブースターによる回生量の増加や空力見直しも加わり、WLTCモード燃費は従来の23.0km/Lから約11%向上して25.7km/Lに達した。
実際に走らせて実感できるのが発電時の静粛性の改善だ。従来のe-POWERは発電時のエンジン音が課題だったが、新型は回転数を400rpm引き下げノイズを4.5dB低減。ロードノイズが大きい荒れた路面を検知してコマメに発電する制御を取り入れたことで、エンジン音に気づきにくくなった。
4WDモデルのe-4ORCEでは、後輪モーターの最大トルクが40%向上した。ブレーキの統合制御によって旋回性能が高まり、高速コーナーも滑らかに駆け抜けることができる。その作動状況は12.3インチメーターで確認可能だ。
19インチタイヤを履く2WDと、17インチタイヤ装着のe-4ORCEを試乗比較したところ、ノイズの感じ方に違いが見られた。2WDはエンジン音が多少届くのに対し、e-4ORCEは「遠くで何かが唸っている」程度に抑えられていた。アクセルを踏み込んでもエンジンを安易に始動せず、BEVのようなスムーズな加速を体感できる。
アクセル操作で加減速を調整するeペダルステップには、任意で切り替えられるON/OFFボタンが新設されなかった。ドライブモードで減速度が変わり、強い減速を得るにはBレンジを使う想定だ。先代でボタン設置の要望が少なかったことも理由だが、日産社内では操作系統一に向けた検討は行われている模様だ。
乗り心地の改善をめざして足回りにも手が入った。前後ショックアブソーバーの径が拡大され、入力速度に応じた減衰力制御を導入。うねった路面などゆっくりとした入力では減衰力を高めてボディの揺れを抑え、段差などの速い入力では減衰力を下げて突き上げを和らげることで、しなやかな走りを実現している。
また、振動を遮断するアプローチとして柔らかいシート構造が取り入れられた。乗員の身体を深く沈み込ませて包み込むようなフィット感をめざした設計だが、この柔らかな座り心地に関しては好みが分かれる側面もある。
先進安全装置の拡充では、フロントノーズ下部を透過させて画面に映し出すインビジブル・フードビューをはじめ、死角にいる車両を知らせるブラインドスポット警告、後退時のリアクロストラフィック警告を新設定。狭い路地でのすれ違いや駐車場からの後退出庫時の安全性が高まった。
安全装備の要となるフロントカメラは検知画角が従来の52度から120度へと大幅に拡大され、解像度も6倍に上がった。おかげで、交差点での右左折時における横断歩行者や対向車も検知対象に加わった。
商品力が高まった新型キックスは顧客を呼び戻す使命を背負っており、戦略的な価格設定がなされている。エントリーモデルのXシンプル・パッケージは300万円を切る299万9700円という魅力的な価格を掲げている。競合するライバル車と比較検討しやすい価格で消費者を惹きつけるだろう。
一方で、Xグレード(325万9300円)との間に存在する25万9600円の価格差には疑問も残る。差分はボディカラーが1色固定になる点、ナビ取り付けパッケージが省かれる点、メーカーオプションが選べない点の3点のみ。Xシンプル・パッケージは実質的な「呼び込み用モデル」とも言える。
それでも新型キックスが提示する総合的な完成度の高さには目を見張るものがある。モダンなデザイン、広くて上質な室内空間、静粛性が向上した第3世代e-POWER、そして最新の安全装備。先代の弱点が解消されて生まれ変わった新型モデルは、日産の復活を象徴する1台として強い存在感を放つに違いない。










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